エージェントを基盤としてインターネット上での多様な社会的活動を効果的に支援することを目標とし,幅広い研究活動を行っています.現在は電子商取引に注目し,知的支援技術の開発を進めています.既存の経済活動の枠組みに人工知能の技術を適用し,新たな経済パラダイムの創出を目指します!

エージェントによる支援を目指して
電子商取引 (EC: Electronic Commerce) とはインターネット上で行われる商取引の総称で,ニューエコノミーと呼ばれる新たな経済構造を構築する鍵として,実社会において非常に高い関心を集めています.一方,人工知能の分野でも,具体的な応用の場として多くの研究者の注目を集め,様々な成果が報告されています.
電子商取引はインターネット上で行われるため,空間的/時間的な制約が存在しません.つまり,いつでもどこでも商取引を行うことが可能となるため,経済活動の活発化が期待できます.しかしそうは言っても,人間の活動時間と能力には限界があります.従って,電子商取引を効果的に支援する技術の開発は必要不可欠であり,また人工知能研究者にとっては,自らが生み出す技術によって社会に貢献するチャンスであると言えます.
本グループでは,現在,エージェントに基づく人間の社会的活動支援の一環として電子商取引支援をとらえ,研究に取り組んでいます.

エージェントは,それぞれのユーザが持つ商取引に関する情報や個人的な好み (選好と言います) に基づいて活動します.ユーザは,エージェントと相談しながら自分の持つ情報や選好を与え,エージェントはその結果得られた情報を駆使して,自律的に交渉を行い,優れた合意を形成してくれる.そんなシステムを実現するための基礎的な技術の開発を試みています.
本研究グループでは,仮想的な空間であるインターネット上で,ソフトウェアであるエージェントを主体として商取引を行う事を想定していますから,それに適したシステム基盤についても考慮する必要があります.本グループでは,インターネットそのものを巨大なマーケットプレイスとすることを考えています.エージェントがインターネット上で自由に,かつ効率的に商取引を行うために適したシステム基盤とは何か?現在,このような問題に関しても研究を行っています.


エージェントによるオークション入札支援
オンラインオークションは電子商取引の一形式で,現在,eBayYahoo!Auctionsといったオンラインオークションサイトが高い人気を集めています.オンラインオークションが発達したため,複数のオークションへの参加が可能になり,欲しい商品を手に入れられる機会は増しています.ところが,複数のオークションを対象にして入札を行うのは,実際には非常に大変な作業になります.絶え間なく価格を監視し,複数のオークションの価格を比較して入札を行うのは,忙しい人にはとても無理です.そのため,ごく少数のオークションだけに注目して入札を行う場合が多いようです.せっかく沢山のオークションが開催されているのに,もったいないことです.

そこで本グループでは,エージェントに基づくオンラインオークション入札支援システムの開発を行っています.ユーザは,欲しい商品に対して持っている価値観や予算などの情報をエージェントに入力するだけで,あとはエージェントが代わりに処理を行ってくれます.左図に示す通り,エージェントは各オークションの価格を監視し,他のエージェントと協調・交渉を繰り返しながら適切なアルゴリズムに基づいて入札戦略を決定して,自動的に入札してくれます.この時,エージェントはユーザの予算を超えないように入札したり,より安く商品を落札してきたりしてくれます.また,より良い商品の情報を自動的に知らせてくれたりもします.とても便利ですね♪

エージェントに基づく入札支援システムとして,本グループではBiddingBotを試作しています.BiddingBotは下図に示す一連の入札プロセスを支援するシステムです.様々なオークションサイトを対象にした情報の収集が可能であること,複数のエージェントによる協調的入札を行うことが特長です.BiddingBotでは,エージェントが,数多く開催されているユーザが希望する商品のオークション中で,最も経済的な落札が可能なオークションを選択し,入札をしてくれます.


現在,本グループではBiddingBotを拡張し,複数の商品の組合せを手に入れるための入札を支援するシステムMultiBidder (アーキテクチャ)の開発を進めています.MultiBidderを用いることで,一度に複数の商品を買いたいといった,より複雑で,人間による実行が困難な入札を支援できます.例えば,テレビとビデオのように,同時に手に入れる方が望ましい (もしくは,同時に手に入れないと価値が無い) 場合の入札の支援が可能になります.
さらに本グループでは,エージェントが用いる入札戦略の決定方法についても考察し,研究を進めています.
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オークションシミュレーション
エージェントによるオークション支援システムを構築したとしても,実はその効果を検証する事は非常に困難です.BiddingBotMultiBidderは実際のオークションサイトに適用できるように実装してはいますが,検証のたびに本当に入札していては,お金がいくらあっても足りません.そこで,オークションのシミュレータが必要になります.
本グループでは,仮想オークションシステムMultiHammer (アーキテクチャ・実行例) を開発しています.MultiHammerは,蓄積した実在のオークションの情報を用いて,BiddingBotMultiHammerにおけるエージェントの入札に対する,適切な入札を提示します.また,それだけではなく,実際に進行中のオークションの情報をも用いたオークションのシミュレーションが可能です.
オンラインオークションは金銭を扱う活動であるため,始めて参加する人にとっては,やや敷居が高い活動と言えます.MultiHammerは,そのような人のための学習の場としても機能します.つまり,MultiHammerの仮想オークション機能を利用して入札の予行練習をすることができるのです.
MultiHammerは,複数のオークションサイトからの情報収集だけでなく,実際に入札をすることも技術的に可能です.そこで現在,ヘルプシステムを備えた統合入札環境とするべく機能の充実を図っています.
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Peer-to-Peer (P2P) に基づくエージェントシステム
本グループでは,実世界に私たち人間が存在して活動しているように,インターネット上にはエージェントが存在して多様な活動をする,という状況を想定しています.このような状況で,エージェントが効率的かつ効果的に活動するためのシステムモデルとして,我々は,Peer-to-Peer (P2P) と呼ばれるネットワークモデルに注目しています.P2Pの定義は現時点で定かではありませんが,少なくとも,自律性を持ったクライアント同士の直接的なアクセスが可能で,一時的なクライアントの存在を許容するもの,という程度の認識があれば良いと思います.
電子商取引をP2Pモデルに基づくエージェントシステムをベースとして行うことにより,買い手や売り手が必要に応じて自由に参加可能な,活発な電子マーケットが構築できます.この時,ユーザは電子マーケットに参加登録する必要はありません.自分のエージェントプログラムを起動させ,知識を与えてやり,ネットワーク上に放り出してやれば,エージェントが自動的に交渉をしてくれます.
現在,本グループでは,システムのより効果的な運用のために,仲介を行うマッチメーカーや,エスクローサービスを提供するブローカーの機能を持つエージェントの導入を試みています.

エージェント間交渉手法
インターネットを介して活動する限り,人間が行うよりもソフトウェアであるエージェントが様々なタスクを行う方が効率的であると考えられます.我々は,電子商取引に限らず,人間の様々な活動をエージェントが代理可能となるように,質の高いエージェント間の交渉手法の実現を試みています.
現在は,これまで本研究室で提案されている交渉手法の応用を考えるとともに,さらに一歩進んだ,交渉の枠組みであるエージェントによる議論の実現を試みています.エージェントが議論をすることにより,人間に近いやりとりがエージェントによって実現できる可能性があります.
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[新谷研究室研究ページ]